台湾資料
 

ごあいさつ
このたびは、私どもアジア・アフリカ言語文化研究所主催による 「臺灣資料(たいわんしりょう):
テキスト・音・映像で見る台湾 〜一九三〇年代の小川・浅井コレクションを中心として」展
(通称「台湾資料」』展)への、ご来場まことにありがとうございます。

 本研究所には、アジア・アフリカ地域の言語や文化について、 現地で収集された
貴重な資料が数多く所蔵されています。今回の「台湾資料」展では、それらの資料の中から、
小川尚義 (おがわなおよし)・浅井恵倫(あさいえりん)両教授 (ともに旧台北帝国大学言語学教室)の
収集による、台湾原住民に関する資料(以下「小川・浅井コレクション」と略称)を、みなさまに
広く公開いたします。
「小川・浅井コレクション」は、 浅井恵倫博士逝去後、一九七〇年にご遺族から本研究所が
譲り受けたもので、和洋書約八七〇冊、フィールドノート等の文書類約四〇〇点、民族写真
約二二,〇〇〇枚、記録フィルム約四〇巻、音声レコード約四〇枚などからなり、さらに、
ニューギニアやベトナム、フィリピン、ヨーロッパ、中国大陸(特に海南島)に関係する資料なども
含まれ、その膨大な量もさることながら、質の上でもきわめて貴重な資料がそろえられています。

 近年の情報処理技術の革新によって、このコレクションはデジタル化され、七〇年の時を越えて、
誰にでもアクセスしやすい資料として生まれ変わりました。「台湾資料」展では、それらのうちでも
特に学術的な価値が高く、また両教授が最も精力的に研究を展開した台湾原住民に関する諸資料を、
実物を含めて公開し、一九三〇年代を中心に、日本の言語学者が行ってきた台湾原住民の研究と
その当時の台湾社会の諸相、そして、日本による統治が今日の台湾社会に与えている影響の一端を
ご覧にいれます。

 小川・浅井両教授の残した資料は多岐にわたりますが、今日では漢民族化が進んだためにすでに
消滅した、あるいは、消滅の危機に瀕した台湾原住民の言語資料、民俗資料が多数含まれており、
学術的に貴重な資料であるばかりでなく、当時の山地の警察によって書かかれた原住民言語教科書、
原住民の風俗習慣を記録した図像などからは、日本植民地期の台湾社会の変容の様子などを知る
ことができます。

 日本統治期に始まった同化政策、皇民化政策の形をとった台湾の近代化は、今日の台湾の社会
や文化にも大きな影響を与えています。近年では、日本時代に形成された文化や日本人が行った
言語調査・民族調査の記録が、台湾人あるいは原住民としての自己認識の形成のシンボルとして、
あるいは町おこしの起爆剤として利用されたり、国による原住民政策にも影響を及ぼしています。
今回の『台湾資料』展で展示した本研究所所蔵資料と台湾の人々にとって身近なアイテムを通し、
みなさまに今日の台湾社会を考えていただくきっかけを、ご提供できれば幸いです。


東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所所長 宮崎 恒二
「台湾資料」展 実行委員会委員長 三尾 裕子