台湾資料

展示パネル  -ラウンジ- 
 



 曽山毅 二〇〇三『植民地台湾と近代ツーリズム』青弓社より




台湾では今、鉄道をめぐる「懐旧ブーム」とでも呼ぶべき現象が起こっています。 台湾の鉄道の歴史は、十九世紀末に清朝によって敷かれたのが始まりです。その後日本がそれを大きく拡張させ、全島の平野部を官設鉄道が貫くようになりました。このほかに、サトウキビの産地と製糖工場を結ぶ私設鉄道が西南部平原に張りめぐらされ、トロッコと呼ばれる私設軌道が、北部や山間部を走るようになりました。戦後の台湾の鉄道は、清朝と日本による官設鉄道を継承し、さらにこれを整備・発展させてきたものです。 近年、かつて駅ごとに売られていた、かたちやデザインの異なる弁当箱や、旧式の切符など、さまざまな鉄道にまつわる品物が復刻されて売られるようになりました。記念品や限定発売の商品は、人びとの郷愁の念を誘い、大きな人気を博しています。 台湾の人びとは、日本による植民地統治を脱した後に、政治的混乱を経て戒厳令下に長らくおかれ、そのなかでも独自の経済発展を遂げて民主化を達成し、今では豊かな生活を手に入れるようになりました。「過去」を相対化して振り返ることができるようになった現在、人びとは「移動」と切り離すことのできない「鉄道」という記号から、過去のさまざまな記憶を喚起しているのかもしれません。人びとの郷愁の念を誘う商法としての台湾鉄道の懐旧ブーム、これも、「過去」を現在に利用する一例といえるでしょう。

二〇〇五年冬、台湾鉄道の駅の売店で 売りだされた鉄道グッズ福袋の広告


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